サカナの靴を履いた人魚

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「あの子は宝石の海にとても憧れていて、口癖みたいにいつも言っていたわ。 『西方大陸の南にはね…… 宝石の海という、それはそれは美しい海があるんだ。 きっとそこには、僕と同じ、人魚たちが暮らしているに違いないんだ! だから、いつか僕は宝石の海に行くよ。 僕が大人になったら、いつか必ず』 だから、きっと今ごろあの子はここにいるハズ。そう思って、わたしは宝石の海にやってきたのよ」 宝石の海か…… そうだったな。俺もガキの頃は本当に憧れていたよ。 故郷の、冷たく、荒い 濁った青灰色の海とは違って 暖かく、穏やかな 透き通った美しい海だとお袋から聞いていたから…… ……ん? [僕]って……? 「あら、言ってなかった? その人魚さん男の子だったのよ」 「えっ、男っ!? ……いや、人魚っていうと女のイメージがあったからてっきり…」 そうなんだよなー 古今東西、人魚伝説に出てくる人魚は九割は女、しかも美少女と決まっているので、ついそんな先入観を抱いてしまいがちだ。 一応、自分も男の人魚なのにな。 ちなみに残りの一割のうちわけについてはネプチューン王国の[海の民の王]の他にカサブランカの[海色の髪をした騎士]サザン王国の[人魚姫]より人魚の父親を匂わせる一文がある。あと、ヒガニシ島の人魚伝説には顔だけ人間の赤子であとは魚という、グロい人魚がいると伝えられていて……(以下省略) それにしても、男の人魚か……なんか妙に親近感を覚える。 そういえば、俺もガキの頃、何度か東方大陸に泳いでいったコトがあった。 あの頃の俺は、母の研究を受け継いだばかりで…… また、諦めて研究を捨てた母に反発していたコトもあって、家出みたいな形で飛び出して人気のない入江や洞窟で寝泊まりしていたんだった。 で、現地のガキんちょを手懐けて 東方大陸の村の風土や文化などをきいたり……まあ、頭の弱そうなガキだったからあまり詳しくは聞き出せなかったんだが…… あと、ニンゲンの身体能力って、どれくらいなのか知りたくて 泳ぎを教えてやると称してそのガキを海に沈めて、どれくらいもつかな~とか…… いや、今思うと結構ヒドいコトしてたかもなー ……すいません反省しています… あの頃の俺は、人間の生態なんてよく知らなかったのだ。 故郷のガキどもと遊び始めたのはその後だし……
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