サカナの靴を履いた人魚

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「わたしは、毎日のように入江に行って、その子と遊んでいたわ」 …海に沈められて死にかけたのにこりないヤツ…… 「……でも、ある時 あるコトがきっかけで、急にあの子が怖くなって……それ以来、入江には近づけなくなっちゃったの……」 ……海に沈められるよりヒドい目にあわされたのか。 相当ヒドい奴だな、その人魚…… 「……それから10年程してダンナさんとデートしてたとき、久しぶりにその入江に行ってみたの。 そこには、あの子がいつも持っていた三つ叉の槍が落ちていて…… ああ、あの子。 わたしが来なくなった後も、ずっと待っていてくれてたんだなぁって…… だから、いつかあの子にこの槍を返して、あの時逃げてごめんねって謝りたいのよ」 と、メノウは遠い目をして、寂しげな微笑みを浮かべた。 ……いいコなんだよな。 頭はとことん弱そうだけど 「……じゃあ、メノウは その友だちにもし逢えたらその槍を返して……それからどうしたいんだ?」 「そうね……仲直りがしたいわ。 そして、また一緒に歌いたいの サザナミの歌…… あの子は、わたしの歌を好きだって言ってくれたから……」 「………。 ……そうか 逢えるといいな、その友だちに。 もう少し、寝てろよ。 ネプチューン島が見えてきたら、起こしてやるから」 俺がそう言うと、彼女はちょっと悪戯っぽく微笑んで小首をかしげた。 「……あら、どうしたの、ギル? 今日は何だか、優しいのね」 「……ばーか。 俺はいつでも優しいだろ?」 と、思わず答え まだ彼女とは、知り合って二日しか経っていないだろ と、自分でつっこんだ。 「ふふっ……そうだったわね! じゃあ、わたし、もう少しだけ眠らせてもらうわね。 おやすみなさい、ギル……」 「ああ……おやすみ」 と、彼女にひと声かけて俺は医務室を出て行った…… ぱたん 「……ねえ、ギル あなたはあの時バカにしたけれど、あの占い師さんの占いは大当たりだったと思うの。 だって、昨日 満月の夜 わたしの歌に誘われて、やってきたのはあなただったでしょ? ね……? サカナの靴を履いた人魚さん?」
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