第一話 拉致

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扉の前に立っていたのは見知らぬ男だ。 建が後ろに仰け反って見上げてしまうほど体躯がいい。 暗い色合いのダークなスーツを着ているが、中に着ているシャツは真っ赤だ。 もちろん、ノーネクタイで胸元のボタンを派手に開けている。 そして、幼い子供が見たら悲鳴を上げて泣き出すような強面だった。 明らかに、その筋という風貌だ。 建は目を見開き、口を開けたまま恐怖で声もでない。 足も竦んで体も完全に固まってしまっている。 「氷野和美(ひの かずみ)はいるか?」 プロレスの悪役のような男から聞かれた質問に、建は首を横に振ることしかできないでいる。
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