第1章

2/27
116人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
今朝見たテレビの天気予報は曇りだと言っていたが、 見上げる空には一片の雲もない見事な晴天だった。 降り注ぐ陽射しはほんのり柔らかく既に春の予感を孕んでいて、 ただ風の冷たさがそれを裏切っている。   マフラーからはみ出た耳の先が、 さっきから千切れるように痛い。 それでも自転車のスピードを緩めずに、 俺はノーブレーキで一気に坂道を下り切った。 何せ担任にも無理だから諦めろと言われ続けた難関の大学に、 今日晴れて合格できたのだ。 耳の痛いのくらい気にならない。 マスクで隠れているのをいいことに、 口元はさっきから緩みっぱなしだ。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!