辞書の想いは。

3/16
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/565ページ
本当の名前をわたしは知っていたけれど、周りがあだ名で呼んでいる中、源先生だなんて恥ずかしくて呼べるはずもなかった。 義経は、いつも古語辞典を持ち歩いていた。 紙辞書の、古臭いやつだ。 電子辞書にすればいいのにと思っていたのだが、義経はいつも慣れた手つきで辞書を引いた。 好きになってからは、その素早い動作すらも魅力的に感じていた。 そして当時の、恋に浮かれた馬鹿なわたしは何を思ったのか、それと同じものを新品で買った。 高校三年の冬だった。
/565ページ

最初のコメントを投稿しよう!