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風はまだ冷たいが、とても良く晴れた四月の土曜日の午後だった。
長山博は小さな自動車整備工場をやっていた。一階が工場で二階が自宅、そこに博の母千代、嫁の洋子、長女の郁恵、次女の千香、犬のペルという五人と一匹というごく平凡な家庭であった。
博はガレージでグローブとバットを用意して、スパイクを磨いていた。
次女の千香がペルの散歩から帰って来た。
博『お帰り』
千香『お父さんただいま。今日は野球の試合なの?』
博『いや、今日は練習だ。明日はホークスと練習試合だ。千香も一緒に行くか?』
千香『うん。お母さんにお弁当たのまなきゃ』
博は無類の野球好きで、地元少年野球のコーチをしていた。
千香はペルをガレージの脇の杭につないで、水を変えてやり階段を駆け上がって行った。
千代『お帰りちぃちゃん』
千香『だだいま、おばぁちゃん。お母さん!明日お父さんと野球場に行くからお弁当作ってね!』
洋子『はい、はい。ちぃちゃんは野球のルールも分からないのに熱心ね。好きな男の子でも居るんでしょ?』
洋子はからかい半分に言って笑った。
千香『何を言ってるのお母さんは?ペルのご飯は?』
千香は少しドキッとしていた、気になる男の子が居たのだ。
博がコーチしてるチームと毎週のように練習試合をしている【ホークス】というチームの背番号3番で左肩に副主将のマークを付けた背の高い男の子だ。
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