第1章

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 座っているのに、瞬きすると眠ってしまう。 「疲れているのに、ごめんな。用事は朝話すから眠っていいぞ」  御形が、畳に布団を敷いている。見ているだけで、又眠っていた。 「やっと本物を見つけた。絶対に誰にも渡すものか…」  御形の呟きが聞こえる。本物って何だ?眠さに思考が麻痺して分からない。 「眠るなら上着脱げよ、皺になる」  御形がボタンを外す。自分でもボタンを外そうとするが、手に持ったまま眠っていた。 「子供みたいだな。…すごい可愛い」  可愛いって何だ?俺は眠ってしまっていた。  鳥の声が聞こえる。煩い位の鳥の声。ここは何処だ?覚醒してゆく思考に、目を開けると、アップで見えた顔があった。 「誰だ?こいつ…」  端正な顔立ちは、眠っていても様になっていた。 「御形?」  何故、御形のアップが目の前にあるのだ。ここは、御形の部屋だ。御形が居てもおかしくはないが、一つの布団で眠っているのはどういうことだ。  しかも、俺が着ているのは、御形のTシャツではないのか。いつ着替えたのだ? 「おはよう黒井」  俺、御形の腕の中に居た。どういうシチェーションなのだこれ。俺の背で、結ばれている御形の手。離れようと足掻くと、余計に締め付けられた。 「おはようは?黒井」 「おはよう」  御形が頬ずりしてきた。完全に抱き枕か、ぬいぐるみ状態だ。 「起きろ!御形」  手で御形の頬を叩く。体にひっついてくる顔を剥がす。  御形の目が開き、じっと俺を見ていた。深い色の瞳で、中に引きこまれそうだった。  チュバと変な音がしたと思ったら、俺、キスされていたのだ。しかも、唇にだ。 「何しているんだ、変態!」 「いや、かわいいからさ、つい」  逃げるように御形が起き上がり、にっかり笑っていた。 「用がこれなら、俺は帰るぞ」  起き上がると、Tシャツしか着ていなかった。 「…服、どこ?」  御形が指差した先に、ハンガーに吊るされて、俺の服があった。 「着て寝ると、皺になるだろう」 「パンツは違うだろ。皺になるか?」  Tシャツ以外、何も着ていない。 「ああ、マーキングした時に脱がしたっけ」  マーキング?恐る恐る、Tシャツをめくると、何かの病気のように、体中に大量に赤い斑点が付いていた。まさか、キスマークなのか。 「今回はマーキングしただけだよ」 「…マーキングって何?」  寝ている間に何をされたのだ。 「所有物の印」
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