第1章

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 この鞠が、同じ場所に置かれているということは、同じ霊障だと判別されているせいだろう。しかし、かなり古いものから、最近のものまである。そして、種類も多数に跨る。長い期間、色々な人が遭遇し、何かがあったということだ。  水を媒介にして、物の過去も見ることは可能だが、これは過去が問題なのではない。土地、その場に何かある。過去を見るなら、その場の過去を見るしかない。 「この鞠は供養の品だよな。この鞠自体には何もないのと違うか?」 「そうだ。やっぱり気になるか?俺もそれは気になる。親父も気にしている」  正解だと言わんばかりに、御形が笑う。御形は、俺には余り見せないが、学校では垂れ流しになっている爽やかな笑顔をしていた。俺は、どれに興味を示すか試されていたのだろうか。それはかなり腹が立つ。 「問題あるかないかは、形にしてみると分かる。俺は見えないから、ここで実体化するか?」  分かっている、これは意地悪だ。ここで実体化した場合、ここにある無数の物が、倍以上に膨らんだ形で、蔵の中に現れる。しかも、動き回る。 「勘弁してください」  こうして爽やかにしていれば、御形が学校のアイドル的な存在なのだと分かる。俺とは対照的な存在だ。 「よし、対象は決まった。朝飯にしよう」  もしかして御形は、俺には見えないものを見ている、聞いている。祖母も母も、闇から聞こえてくるような、人の思いは、聞き続けるとあまりにも重いと言っていた。修業していないと、精神を病んでしまう。  御形、一人で抱えているのではないか。でも、偽霊能力者の俺には、どうすることもできない。  御形家の朝食は、慌ただしい。法事が何々がと、ドタバタと走り回っている。その間に、電話が何回も鳴った。 「邪魔だよな、俺」  ごはんに味噌汁の朝食。甘くダシの効いた厚焼き玉子、シャケの焼き魚。 「いやいや、いつもの朝だから」  御形は、のんびりとテーブルに座っている。親を手伝うという気持ちは、微塵もないようだった。 「で、次の三連休。空けて。鞠の場所に案内するから」 「志信、鞠の件、解決してくれるなら旅費はこっちが持つぞ」  御形の父親、袈裟を着て数珠を手にしていた。動き回っているが、会話は聞いているらしい。 「親父、助かる」  御形、味噌汁を飲みながら礼を言う。 「俺、バイト三昧だけど」  金の他にも、俺には祖母と母に借りがあるのだ。
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