第1章

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 この家には、余り係り合いたくない。  祖母の仕事の手伝いをしていると、御形の母親かららしき電話が、幾度も俺の母に掛かってきていた。 「典史、何をやったの、御形さんから何度も電話を頂いているわよ」  何かに取り憑かれたという男性のお祓い中。祖母は祈り続けている。母は、見守る親族に説明を行っているのだが、その最中に何度も電話が鳴った。 「アパート代が浮くなら、同居も同棲も構わないけど、学校を退学にならないでね」  まさか、御形の母親にそんなセリフを言ったのだろうか。 「御形、男だよ。同棲はないだろ」 「このご時世だからねえ」  息子が男と付き合ってもいいのか?どういう母親だ。 「孫の顔を見たくないのか?」  男とでは子供が出来ない。 「葵がいるから大丈夫」  葵は俺の姉だった。 「とにかくね、私は貴方が幸せなら、それで満足」  この言葉は、深い。散々、迷惑も心配も母親に掛けてしまっていた。  でも、御形の家に行くつもりはない。それに今は、お祓い中だ。 「典史が泣いている姿は、私はもう見て居たくないしね」  祓いの最中に、霧状の水を撒く。祖母から俺への過去を読めとのメッセージだ。  この男、女癖がすこぶる悪い。女性を口説く時は、嘘も平気でつく。別の女性が現れると、平気で女を捨て、捨てる時は金を巻き上げ、サラ金に借金をさせ、自分につぎ込ませていた。この男は、そのことに、微塵の罪悪感をも持っていない。取りつかれているのではなく、女に取りついている方だ。最近、女が近寄って来なくなり、行き詰まっていただけだ。  鈴を鳴らし、祖母に何も取りついていない節を伝える。祓うべきは、こいつの行いであって霊ではない。 「女性関係を改めなさい!」  祖母の凛とした声が響く。 「女が俺に憑いているのか!」  祖母は首を振る。 「いいえ、女性達は全員、既に貴方を見限りました」 「うそだ!」  大声で泣きだした男が居た。 「こんなにいい奴なのに、どうして、俺が見限られる。女は皆喜んでいた」  自分を見直させるには、自分の事を語らせるのも手だ。家族でさえ、この男が、自分にここまで自惚れていたとは知らないだろう。 「俺は女が買った物を喜んで貰ってやっていた。尽くしたいと言うから、やらせてた。どこが悪い。お返しに抱いてまでやった」  酷い男だ。外見はいい男でも、中身はクズ以下かもしれない。 「大切な女性はいなかったのですか?」
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