第1章

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「母を見ろ!女は家畜だよ。そう親父からもじいさんからも教えられた。家畜は財産だけど、人間じゃあない。そんなものを愛せるか?無理だろう」  男の母親が泣いていた。母親を泣かせる男は、最低だ。 「貴方は、自分の子孫をも憎んでいますね」  祖母は容赦ない。多分、それがこの憑かれている現象の発端なのだ。多分、この男は、自分の子孫まで憎んでいるのだ。女から生まれる、それだけのことで。 「それがどうした」  母が、男の家族に向き合う。 「この方は、憑かれているのではありません。必要なものは、精神科医か、カウンセリングでしょう」  母がメモと紹介状を渡す。 「憑かれていない以上、代金は頂きません。が、呼ばれた分の、交通費のみ頂戴いたします」  男が、俺は異常じゃない、憑かれているのだと、祖母に殴りかかった。俺は、殴りかかる手をそっと祓い、祖母を立たせた。  『霊障でなければ、代金はいらない』こんな商売で、生計を立てられるのだから不思議だ。 「真っ当に生きろ」  厄介事は避けたいので、男の深層心理に暗示をかける。男は、へなへなと座り込むと、大声で泣きだした。  しまった、クズに真っ当に生きろとは酷だった。暗示により、男の今までの人生が全否定されてしまったのかもしれない。 「ごめんなさい、お母さん。貴方は、俺を生んだ素晴らしい人です。彼女達にも、酷いことをしてしまった。どう償えばいいのだろう」  どういう訳か、どうしても受け取って欲しいと、男の家族はお祓い料を持たせてくれた。しかも、菓子折りと、寿司まで持たせてくれた。  土曜日中に終わって良かった。俺は、アルバイト料と、菓子折りに寿司まで持たされ、帰宅することになった。  一人暮らしのアパートに戻る前に、バイクを走らせ御形の家に寄る。 「こんにちは」   玄関を開けると、御形の母親が居た。 「あら、典史ちゃん」  いつから名前で呼ぶようになったのだろう。でも、細かい事は気にしないことにする。 「仕事で菓子を貰ったので、良かったら食べてください。俺、一人暮らしで菓子は食べませんので」  スナック菓子は食べるかもしれないが、和菓子は食べない。 「志信!」 「いえ志信君には用事がありませんから、呼ばないでください」  朝食の礼に、菓子を届けただけだ。御形に用はない。 「あっ、典史兄ちゃん」
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