第1章

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 帰ろうと踵を返したところで、一穂が後ろから抱き着いてきた。いつから、兄ちゃん呼びになったのだ。 「典史兄ちゃん、大好き!」  振りほどけない、意外にがっちりしがみついている。 「ナイス、一穂!」  御形に見つかってしまった。どういう連携プレイなのだ、この兄弟。 「上がってゆけ。夕食、一緒に食べろ。泊まってゆけ」  腕も掴まれている。 「バイクに寿司が乗っている。持ってきてくれる。それと、俺は訳があって、幾日も外泊できない」  説明するには時間がかかる。でも、深刻な問題を抱えているのだ。 「寿司、持ってくる。一穂、絶対に黒井を離すな!」 「分かった!」  あらあらと、御形のお母さんが笑っている。 「そうそう、典史ちゃん。黒井さんのおばあさんが明日来てくれるそうなの」  今回のお祓い、明日までかかりそうと踏んでいたので、他の仕事を取っていなかったのだろう。早めに一穂を見て貰えるのなら、良かった。 「寿司持ってきた」  御形が、寿司を片手に玄関に現れた。  何度来ても、大きい家だった。庭に面した和室で、茶を飲みながら夕食を待っていた。私の料理は食べないの?寿司を食べるの?と御形の母親が、酷くがっかりしていたので、別に寿司を食べたい訳ではなく痛むからだと伝えると喜んで、寿司は御形の父に食べさせてしまった。 「俺、今日、黒井のアパートに泊まる」  御形が呟く。 「い、いや、それは、こ、困る」 「何慌てている?何かあるのか?俺、絶対に行く」  いい夕日だった。この夕日を見せるために、きっと、この部屋に通したのだ。  変に嘘を付くなら、真実を言ってしまった方がいいか。 「失敗した、三歳の頃。叔母があんまり泣くので、行方不明になっていた叔父を灰で実体化してしまった。まだ、力が安定していなくて、叔父の実体化は一週間で消えたのだけど、叔母に子供ができた。子供は何のハーフなんだろうな。生まれた従兄は、実体化し続けないと、消える」  従兄は周期的に実体化させないと、消えてしまう存在だった。でも、ちゃんと学校に通う、ごく普通の子供にも見える。通常、実体化は死んだ時の姿のままなのだが、従兄は成長していた。 「周期的に従兄が来る。だいたい金曜日の夜か土曜日の夜だ。昨日、俺は会っていないので、今日は来るはずだ」
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