第1章

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 幽霊のように、鍵が無くても隙間から入り込み、離れていても瞬時に移動する従兄。人間ではないなと、叔母も感じているのだろうが、それでも可愛い息子なのだ。 「人が居ても、構わないよ」 「明日、一穂の様子を見にここに来るから、泊まりは勘弁してください」  御形、納得していたように見えたのだが、夜、俺のアパートにやってきた。同じ時間に、従兄の恭輔も窓から現れた。 「何?典史兄、客人来ているよ」  恭輔は勝手に入ってくるが、御形は玄関を開けないと入って来られない。そのままにしておこうかとしたが、ノックが激しく鳴っていた。  仕方なく玄関のドアを開けると、大きなバックを担いだ御形が居た。 「御形、何で来ている?」  玄関にずかずかと入ってきた御形は、そのまま上がり込み、恭輔の前に立った。  恭輔は、半透明になり、まるでなめくじ?のように溶けかかっていた。 「典史兄、急げ」  恭輔の姿を見る限り、確かに急いだ方が良さそうだった。棚から灰を出すと、少しずつ恭輔に掛ける。掛けた場所から、実体化していった。 「助かった。このまま溶けるかと思ったよ。昨日も来たけど、典史兄、帰って来ないし」  今年中学に入った恭輔だが、身長は既に俺と変わらない。どこかふてぶてしい表情で、御形を見ていた。 「これ見て驚かないということは、典史兄、説明してあるの?」  俺がうなずくと、恭輔は腕組みをして御形を見上げた。 「俺は、典史兄が居ないと生きられない。だから、典史兄が大切だ。お前は邪魔だ」  恭輔のきついつり目に睨まれても、御形は怯まず睨み返していた。 「さてと、寝よ。典史兄」  俺のベッドに潜り込む恭輔。 「ほら、ここに来て」  恭輔、自分の隣をポンポンと叩く。 「帰れよ、恭輔」  確かに、実体化を安定させるには、俺の傍に居た方がいい。子供の頃から、恭輔は俺のベッドに潜り込んでは安眠していた。溶ける心配をしなくてもいい唯一の場所だからと言われると、俺も責任を感じて放置してきたが、今日は御形が来ている。 「…いつも一緒に寝ているのか?」 「時々ね」  又、御形と恭輔が睨み合っている。 「俺、床で寝るから、もう寝かせて」  仕事をした日は、とにかく眠いのだ。もう眠らせて欲しい。 「典史兄は、仕事が終わるとどこでも眠る。全く起きない。だから、俺は守るために隣で眠っている」  恭輔が何か言っているが、もう限界。俺は眠ってしまっていた。
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