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幽霊のように、鍵が無くても隙間から入り込み、離れていても瞬時に移動する従兄。人間ではないなと、叔母も感じているのだろうが、それでも可愛い息子なのだ。
「人が居ても、構わないよ」
「明日、一穂の様子を見にここに来るから、泊まりは勘弁してください」
御形、納得していたように見えたのだが、夜、俺のアパートにやってきた。同じ時間に、従兄の恭輔も窓から現れた。
「何?典史兄、客人来ているよ」
恭輔は勝手に入ってくるが、御形は玄関を開けないと入って来られない。そのままにしておこうかとしたが、ノックが激しく鳴っていた。
仕方なく玄関のドアを開けると、大きなバックを担いだ御形が居た。
「御形、何で来ている?」
玄関にずかずかと入ってきた御形は、そのまま上がり込み、恭輔の前に立った。
恭輔は、半透明になり、まるでなめくじ?のように溶けかかっていた。
「典史兄、急げ」
恭輔の姿を見る限り、確かに急いだ方が良さそうだった。棚から灰を出すと、少しずつ恭輔に掛ける。掛けた場所から、実体化していった。
「助かった。このまま溶けるかと思ったよ。昨日も来たけど、典史兄、帰って来ないし」
今年中学に入った恭輔だが、身長は既に俺と変わらない。どこかふてぶてしい表情で、御形を見ていた。
「これ見て驚かないということは、典史兄、説明してあるの?」
俺がうなずくと、恭輔は腕組みをして御形を見上げた。
「俺は、典史兄が居ないと生きられない。だから、典史兄が大切だ。お前は邪魔だ」
恭輔のきついつり目に睨まれても、御形は怯まず睨み返していた。
「さてと、寝よ。典史兄」
俺のベッドに潜り込む恭輔。
「ほら、ここに来て」
恭輔、自分の隣をポンポンと叩く。
「帰れよ、恭輔」
確かに、実体化を安定させるには、俺の傍に居た方がいい。子供の頃から、恭輔は俺のベッドに潜り込んでは安眠していた。溶ける心配をしなくてもいい唯一の場所だからと言われると、俺も責任を感じて放置してきたが、今日は御形が来ている。
「…いつも一緒に寝ているのか?」
「時々ね」
又、御形と恭輔が睨み合っている。
「俺、床で寝るから、もう寝かせて」
仕事をした日は、とにかく眠いのだ。もう眠らせて欲しい。
「典史兄は、仕事が終わるとどこでも眠る。全く起きない。だから、俺は守るために隣で眠っている」
恭輔が何か言っているが、もう限界。俺は眠ってしまっていた。
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