第1章

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 駅名のアナウンスが流れると、御形が荷物を棚から降ろした。俺の分の荷物まで持とうとしたので、俺は自分の荷物を無理やり受け取る。  たいした荷物は入れていないが、灰だの塩だの、水だの重いものが入っているのだ。 「…重い荷物だな」  着替えは忘れてもいいが、商売道具は忘れるわけにはいかないだろう。自分でしっかりと持っていたい。  旅館は、駅からまた十キロも離れていた。タクシーに乗ろうとしても、タクシーが一台も無かった。  駅前の食堂に入ろうとしたが、ランチの時間を過ぎていて、次の営業が夕方からとなっていた。夕方は、居酒屋になるようだ。  俺一人ならば、十キロくらいは走れる。でも、御形、体力あるのだろうか。 「御形さん、こちらです」  良かった、旅館の車が出迎えに来ていた。 「お疲れでしょう」  若い女性が、御形の顔や姿にうっとりとしていた。御形も、爽やかスマイルを崩さない。 「山の中なので驚かれますよ」  横に旅館の名前の入ったマイクロバスを、若い女性が簡単そうに運転していた。  小さな町を抜け、田園地帯を過ぎ、山の中に入る。これ以上は道が無くなるのではと細くなった道の先に、綺麗な旅館が見えていた。 周囲を山に囲まれて、ひっそりと佇んでいるが、これはかなりの高級旅館という雰囲気があった。  どことなく、御形の家にも似ている。  女性が御形の荷物を手に持つ。御形が断ろうとしたが、仕事ですからと笑顔で返された。俺の荷物も持とうとしたが、持てなかった。 「重いですね」  俺はうなずくと、自分のバッグを肩に掛けた。慣れている重さだ。俺は、自分の過去見だけで判断しない。調査用のパソコン類も入っている。  女性は、小走りで旅館の中に入り、急いで荷物を運ぶ台車を持ってきた。 「ここにどうぞ」  中々ガッツのある女性だった。 「あんまり姿がお綺麗なので、私などはお客様と、比べられると困るので隣に並びたくないくらいです。お客様は御形様のご友人ですか?」  友人だろうか?暫し、考え込むと、女性が顔を真っ赤にした。 「知人でしょうか?親同士は知り合いのようです」 「恋人とか言われたと考えてしまいましたよ」  何故、恋人。間違っても考えて欲しくない。 「それは違います」  旅館の中に入ると、御形が旅館の女将と何か話し込んでいた。  ロビーのあちこちにも、赤い手鞠が飾られている。一つ手に取ると、リンリンという鈴の音がした。
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