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御形の手が、俺の背に回る。御形は、何て寂しい奴なのだ。沢山の友人が居ながら、誰にも素顔を見せていない。心から、友人を信じていないのだ。
御形の舌が、俺の唇を舐め、中へと入り込んできた。男とキスするのは御形が初めてで、キスされるという側も御形で初めてだ。舌の上を、御形の舌が滑る。御形の手が、湯の中に入った。
「ここまで!」
俺は、御形を振りほどき立ち上がると、風呂を出た。
「これ以上したら、俺はここから帰る」
俺は、ここで仕事をする。恋愛をする気はない。
六十年くらい前のこの季節、行方不明になった少女が居た筈だ。パソコンを手に、検索する。このパソコン、仕事上、色々なデータを完備していた。
この旅館の娘が一人、行方不明になっていた。この旅館の先代の女将は、行方不明になった後に生まれた次女だった。
「行方不明か…」
山狩りしたが、見つからなかった。貰ったばかりの鞠を、早朝に練習していた。親が目を離した、数分の出来事だった。
「死んだことに気付いていないのだな、きっと」
鞠の練習をする。行方不明になる。遊び相手を見つけたと。他の子どもも巻き込むのだ。多分、霊は寂しい。
調べものが終わると、腹が減っていることに気が付いた。時計を見ると、もう夕食の時間になっている。
「御形!夕飯!」
御形は露天風呂をじっと見つめていた。俺の声に反応すると、素早く立ち上がり支度を始めた。
この旅館は、宿泊者のための食事処を用意していた。部屋食もいいが、揚げたての天ぷら等、その場で食べることが一番おいしい食事もある。
食事処に行ってみると、全て半個室になっていた。テーブルもあるが、畳の間も用意されていた。畳の間の窓の下には、川が流れている。
「畳の間が宜しいですか?」
「テーブルでいいです」
老夫婦が多い。どこも、のんびりと寛いで余裕のある表情をしていた。
「ここ落ち武者伝説もあるからな」
川辺には多分、落ち武者が居るのだろう。窓を見たくないという、御形の気持ちは分かる。
「本当に霊は全く見えないのか?」
霊能力者としては、致命的な欠品だ。占い師の姉でさえ、霊は見える。
「霊感はゼロだ。占い師の姉に鍛えられて、顔の表情や仕草、行動から思考を読む。で、どうにか見ているフリで誤魔化してきた」
どうしょうもない時は、俺にも見えるように実体化した。
「そうか大変だったな」
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