第1章

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 運悪く、雨が降り出した。穴に、流れた土が入ってゆく。 「女将、俺にもスコップありますか?」  スコップを借りると、斜面を走り出す。見た映像によると、離れの斜め下あたりだった。スコップで穴を掘ろうとすると、地面は意外に硬かった。  女将も一緒になり、穴を掘る。すると、赤い服が見えてきた。そして、小さな手の骨が見えた。 「ここからは、貴方は下がってください。こんな惨い死体、子供に見せたくないのです」  女将は携帯を手に取り、誰かに連絡していた。 「俺、子供じゃありませんよ」  近寄ろうとすると、女将に阻止された。 「子供です!」  暫くすると、幾人か現れ、俺は益々近寄れなくなってしまった。  粘土質の土がかかってしまい密封状態となったせいか、長い年月を経ても白骨ではなかったのだそうだ。 「黒井!黒井!」  離れから声が聞こえた。 「ここだ!」  庭にまわり、姿を見せる。 「一人で行くなと言ったろ!」  真剣な御形の顔。本当に、かっこいいやつなのだ、今になってファンクラブがあるのがうなずける。  庭から部屋に入ると、御形に殴られた。 「黒井の体に呪印付けたの俺だよ、離れるなと命令してもいいのか?」  御形の手が伸びてくる。今、朝、しかも庭にも、騒ぎに人が集まってきている。俺は、後ろへと逃げる。 「俺と黒井以外が触れるとやけどするよ」  脅されたのは知っている。でも、本当は、俺は脅しで動いたわけではない。御形の家族が、温かかったから、つい、手助けしてしまったのだ。 「呪印ならば解いてある、俺、これでも、偽だけど霊能力者だから」  こいつに何回キスされたのだろう。風呂場に連れ込まれて男にキスされるなんて、今まで考えたこともなかった。でも、足が滑りそうになって捕まった御形の背が、思いのほか逞しかった。案外、俺は、御形を信頼していると、ふと気付いた。 「御形、あのな、今の御形は大切なおもちゃを手に入れた子供みたいだよ。壊したいでも、二体はないからダメ。大切にしたい、でもそれじゃあ一緒に遊べない、みたいな」  だから、御形、本気で人と関わって、もっと大人に、そして、いい男になってくれ。 「さよならだ、御形」  荷物をまとめると、女将に挨拶しに行く。霊能力者が係ったとなると、イメージが悪いのか、女将は自分が散歩していて見つけたということにしたらしい。何度も礼を言われ、もう一泊して欲しいと言われたが断った。
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