第1章

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 警察やら、色々とやってきている旅館を俺は後にした。  仕事仲間の蓮(れん)を呼ぶと、仕事を手伝うのを条件に家まで送ってもらった。蓮は、姉と同業者の人気占い師だが、他にも裏稼業でお祓師なるものをやっていた。俺に手伝えというのは、お祓師のほうだ。  家に戻ると、バイクに乗り、御形の家へと向かう。  御形に言っていなかった俺の能力。眠ると自動的に発動するが、結界なるものを張る。意識的に結界を張る場合は、俺は自分の髪を媒介とする。  俺は、自分の髪の細かく切ったものを、風に乗せ御形の家を取り囲むように、又、一定の間隔を置き、敷地内にくまなく飛ばした。  『全ての闇からこの家族を守れ。彼らに安息の地を与えよ』多くは望めないが、この地の霊は眠りにつくだろう。俺には祓いの力はないので、眠らせるしかない。  霊が見えない聞こえない、しかも祓いの力の無い俺を、本物の霊能力者と言ってくれてありがとう。  御形の家を去ると、アパートに戻る。蓮から、修業をし直せと言われているので一緒にどうだ?とも誘われていた。  祓いが全くできないのは、やはり致命傷だ。俺は、アパートを引き払い、修業しながら学校に通うと決めた。  実家に近い、山の中腹。農家を改造した家と、修業場があった。表向き、農家レストラン春日。意外にも一定の客は来ており、商売にはなっているようだ。蓮の父は、修験道を目指したことがあると言っているが定かではない。ただ、霊が見える体質だったために、 苦労はしたらしい。そこで、霊が見えて困っている人のために、体質強化合宿なるものを時折ひらいていた。  早朝、野菜の手入れと、収穫から日々が始まる。自分の食する物は、自分で栽培するべし。井戸水で丁寧に野菜を洗う。レストランの分もあるので、野菜は大量に洗う。  そこから、野菜の皮むき。修業というのは、まるでレストランの修業のようだったが、春日の父曰く、食は基本なのだそうだ。 「霊が見えない体質なんだけどな」  見える霊より、自分の気を強く持て。揺るがない自分を持て。仕事の合間に、少しずつ、 声を掛けられる。 「蓮、何故、修業のやり直しになったの?」  春日蓮、占い師かつ、お祓師。本当は、大学生なのだとも、知っている。 「部屋に女の子を連れ込んでいたのを、父親に見つかった」
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