第1章

28/38

202人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
 派手ではない蓮だが、何故か女の子に昔からよくもてた。優しいからかとも思うが、蓮曰く、女の子の気持ちが分からないと占いができないそうだ。 「それだけで?」 「その女の子が、食事は食べるのみで、包丁を持ったことがない、米炊いたことがない。洗い物したことがない。野菜、嫌い。だったもんで、父、激怒」  何か激怒した姿が浮かぶ。春日の父は、頑固親父的な雰囲気を醸し出しているが、繊細な料理と味覚を持っている。特に、野菜への愛情は半端ない。野菜嫌いはまずいだろう。  野菜の皮むきの次は、庭の掃除を行う。敷き地内が広いので、かなりの重労働だ。てきぱきと終わらせないと、学校に間に合わない。  息を切らせながら終了すると、シャワーを浴びる。 「では学校行ってきます」  ずっしりと重い弁当を持たされた。朝食と昼食の二食分あるようだ。  学校では、修業の疲れか、休み時間毎に爆睡していた。前の席の荒川が、授業が始まる前に都度起こしてくれた。御形はその後、俺には係らないが、時折、視線は感じた。俺も、その後、御形の家族は眠れているか?一穂は元気か?聞きたい気がしたが、聞かずにそのままになっていた。  農家レストラン春日に帰ると、縁側に恭輔が正座して待っていた。 「ただいまもどりました」  春日の父に、丁寧に頭を下げる。 「恭輔?」  恭輔がベソをかきながら、抱き着いてきた。 「この親父、俺の姿を見て、なめくじだって言った。水籠りさせた。畑仕事した」  支離滅裂だが、要するに、溶けかかった恭輔に修業をさせていたらしい。 「意外に効くみたいだね」  恭輔、実体化していた。 「早く処置するように。一時的なショックで最後の力を振り絞った状態なだけだ」  恭輔を見て驚かないだけで、春日の父は凄い。しかも、ちゃんと見抜いている。  鞄から灰を出すと、恭輔を実体化する。 「典史兄、俺帰るからね!」  用が済んだとばかりに、逃げるように恭輔が帰ろうとする。 「野菜、持ってゆけ」  野菜が大量に、風呂敷に包んで置いてあった。 「恭輔、お礼」 「ありがとうございます」  恭輔が消えるように去って行っても、驚かなかった。 「あれは、霊との子供だな…」  春日の父、悲しそうな目で恭輔を見ていた。 「前例はありますか?」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

202人が本棚に入れています
本棚に追加