第1章

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「話には聞いた事があるだけだ。酷だが、成長している内はいいのだが、成長が止まった後が大変でな、姿を留められずに妖怪のような姿に変化し易い」  恭輔が妖怪。 「そうなる前に修業させるべきだな」  やんちゃな恭輔が、修業に応じるとは思えないが、俺は、長く恭輔に留まって欲しい。 「説得します」  でも、その前に俺も修業の身だった。夕暮れに水籠りすると、寒かった。清い自分を認知して、保つ。これを繰り返すと、穢れを察知できるようになるらしい。  祓いとは、相手を単一のものにする作業、自身で内から高め、自分が自分であることを清いとする。根拠は無いが、何度も水籠りしていると、余分な思考が取れてゆく。それが、妙にすっきりとする。  農家レストランはディナーの時間になっていた。灯りのない夜を楽しむ、遠くの街の灯りを愛おしむ。そんな席が用意されている。  風呂用の薪を割っていると、春日の父が立っていた。頑固な親父だが、言葉よりも雄弁に食で語ってくれる。 「君は、祓いには向かないかもしれないが、ここで分かったことは大切にして欲しい」  やはり、俺は祓いが向かないのか。ちょっとがっかりしたが、自分でも気付いていた。 「できれば、もう少し修業したいです」 「それはいいけど、君は人間よりも自然に近い存在なのかもしれないよ。今の能力は教えられたのではなく、最初から出来たのだろう?」  最初から出来た。それで、暴走してしまい祖母にも母にも迷惑をかけた。 「はい」  光が無ければ星が綺麗だ。こんなに沢山の星が夜空にあるなんて、気付かなかった。 「俺が教えることなんて、何も無いよ」  腹が減って、ごはんがおいしいように、人は飢えて人が恋しくなるものかもしれない。 「野菜の栽培と、料理を教えてください」 「それは、実地で覚えて貰うよ」  春日の父は笑っていた。ここに来て、野菜が本当においしかった。 「蓮ものそう言ってくれたら、嬉しいのにな」  連は末っ子で、親が子離れできないのかもしれない。  次の日、学校の帰り道、駅で御形と一緒になった。御形が目を合わせないようにしていたので、声を掛けなかったが、俺が駅のホームに降りると追ってきた。 「今、どこに住んでいる?」  俺は、今までとはホームが逆になっていた。 「アパートは、引き払われていたし」 「実家の近くで修業している」  御形は、何か言いたげに俺の顔を見たが、又黙ってしまった。
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