第1章

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 しかも、後が悪い。その先生が、俺を辞めさせた後、すぐに趣味で登っていた山で遭難し、帰らぬ人となってしまった。あいつには、祟りがある。噂に尾ひれがついてしまっている。  ゆっくりと廊下を歩いていると、誰かが後ろを付いてきていた。振り返ろうかとも思ったが、面倒なのでそのままにする。  靴を履き替え、グランドを過ぎたあたりで、俺の横に走り寄ってきた人物がいた。でも、先ほど俺を付けていたのは、こいつではない。 「黒井、ちょっと頼みがある」  確か隣のクラスの新田。陸上部の長距離の選手だったように思う。  俺に頼みとは、ろくなものではない。多少の覚悟をして、立ち止まった。 「祖母の家に来て欲しいのだけど、死んだ健吾がイタズラして困るって言っていてさ」  やはり、ろくな頼みではなかった。 「俺の親は、ばあちゃんを、痴呆だのボケだの罵ってさ、可哀想でさ。本当に健吾かもしれないだろ?」  俺は、問題を抱えていて、単独では仕事ができない。丁寧に断ろうとすると、横にもう一人来た。先ほど、俺を付けていたのは、こいつだ。気配が同じだ。 「引き受ける。な、黒井」  こいつは誰だ?顔をじっくりと見た。確か同じ学年の御形(ごぎょう)、寺の息子と聞いたような。女性に大人気で、近隣の学校にまでファンクラブがある奴。どうして、こいつが俺の仕事を引き受けるのだ。 「良かった!じゃ早速向かうよ。荷物まとめてくる!」  新田が、笑顔で走り去って行った。  御形、俺よりも少し身長が高い、りりしい感じの、清潔感漂う二枚目で、アイドルというよりかは役者という感じだった。好感度のよい御形の笑みが、ふと崩れて、ニヤリと笑った。 「たまにはボランティアで人助けもいいもんだよ、黒井」  御形から悪のオーラが漂う。でも、人が通ると爽やかな笑顔に戻った。  新田が大きなスポーツバッグを抱えて、走って戻ってきた。自転車も横に抱えるように走らせている。 「祖母の家は、ここから近いからさ」  新田の祖母の家は、学校から徒歩二十分あたりの、住宅街にあった。古いが、丁寧に手入れされている庭と、温かい笑顔のおばあさんが居た。 「ばあちゃん、友達連れてきた」  年配の女性が、庭で丁寧に花殻を摘んでいた。  庭は、その人の性格が出る。小さいが、ここの庭は温かい。深呼吸すると、植木鉢が一つ勝手にひっくり返った。 「健吾でしょう?」
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