第1章

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 結界なんぞ、あのパワーならば破れただろう。それを、破ってはダメだと頑張ったので、あの捩じれた奇妙な状態になったのかもしれない。 「御形、ごめん。俺、逃げる」  このパワーには太刀打ちでいない。俺が、玄関からダッシュで逃げようとすると、いつの間にか一之進に抱きかかえられていた。 「姉さんが夕食を食べてゆけと言ったろ?」  一之進の肩に担がれて、玄関まで戻ってしまった。俺を置いて逃げようとした蓮も、一之進の睨みで玄関へと戻ってきた。 「志信。この天女君、絶対に手放すな!いいか、二度と手放そうと思うな。それと、そっちの奴も確保しておくといい。後で必ず役に立つ」  獲物でしょうか、俺たち。蓮と目を合わせて、溜息を付く。異能力者は、権力者と出会ってはならない。異能力者は人とカウントされない。よく、仲間から言われていたが、少し分かった気がした。 「黒井、巻き込んでごめん。叔父さん悪い人ではないと思っているのだけど」  すまなそうに御形が頭を下げる。 「一之進さんのことは、詳しくは、こっちの蓮か、蓮の親父に聞くといいよ。今言えることは、自然災害みたいな人ということ」  多分、御形家に危害を加えるつもりはないということは分かるが、自然災害、台風の影響は大きい。  靴を脱いでいると、御形は蓮を凝視していた。 「あの人と住んでいるのか?」  連と住んでいるかと問われると、微妙な気分だ。一緒に修業はしているので、住んでいうとも言うのかもしれない。 「あっちは、春日蓮、一緒に修業している」  俺も聞きたいことがある。 「一之進さん、本物の能力者じゃないのか?俺は要らないだろう?」  御形が勢いよく俺を見た。俺の両肩をつかんで、逃げられないように押さえ込む。 「あれは悪霊じゃないのか?叔父が来るとな、家全体が霊の巣窟になる。おまけに、あちこちから、変な霊も吸い寄せられる。俺が探していたのは、安らかな夜の月みたいな力で、悪霊じゃない」  どれだけ苦労しているのか、必死で訴えられても、俺にも一之進さんはどうすることもできない。一之進は例えるならば、太陽かもしれない、光を求めて霊も、多分人も集まる。又、近くに居ると、力を得てしまうので、霊も活性化する。 「分かった」  とりあえず、御形の訴えにうなずく。 「じゃ、修業が済んだら一緒に暮らそう」
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