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どうしてそうなるのか分からないが、俺はうなずくのを止めて文句を言いかけた。そこへ一穂が、泣きながら俺に抱き着いてきた。一穂を追いかけて、一之進も近寄ってきた。
「一穂、どうして叔父ちゃんには懐かないのかな」
一之進が、一穂を抱きしめようとじりじりと近寄ってくる。
一之進、こんなに怯える一穂の姿が見えないのだろうか?
「一之進さん!正座!」
「えっ、ここ玄関だけど」
俺は、一之進を正座させ、自分も一之進の正面に正座する。
「いいですか、あなたは薬にするとゾウ用か恐竜用かとにかく、ばかでかい生物用です。一穂は子供で、大人用の薬も半分でいい状態です。過剰摂取は、生命の危機なんですよ。だから逃げる、当然でしょう!」
一之進が胡坐をかこうとしたので、睨んで止める。
「反省の色がない!」
一之進が、済まなそうに頭を垂れる。
「たまにだから、スキンシップしたいな、とか」
「虎がウサギにじゃれているようなものですよ、ウサギが喜びますか!」
どうも、一之進は自覚が少ない。
「何となくは分かった。で、俺、一穂に嫌われているのかな」
一穂が俺の後ろから、顔だけ出す。
「嫌いじゃないよ」
一之進が、満面の笑顔で、また、一穂に抱き着こうとしたので睨んで止める。
「君、名前は?」
「黒井です」
「俺、黒井君、持って帰ろうかな……俺を叱るのは、姉さん以外できないかと思っていたよ」
御形と一穂が、慌てて俺を抱き込んだ。
「持って行っては、ダメ!」
第五章 ただ今進化過程中
どこをどうしたら、こうなったのか分からないが、俺は御形の家に引っ越し中。農家レストラン春日での修業は、土日のみとなった。
しかも、部屋は、御形の隣。
「荷物、少ないな」
ほとんど何も無い。学校の制服やら荷物と、
わずかな着替え、残りは仕事の道具だけだ。
「移動が多いから、極力、何も持たないようにしているからな」
半日で終わった引っ越しだったが、疲れて床に寝転んだ。
「俺の両親が、安眠のため必要だと、黒井の両親に頼み込んだみたいよ」
御形の両親、息子がこんなイタズラしているとも知らずに頼んだのか。
寝転んだ俺の横に、御形が寝転び、顔だけ寄せ軽くキスをしてきた。
「黒井、俺、まだまだ半人前かもしれないけれど、頑張るよ」
本当は、知っていた。俺も半人前だ。
「一緒に進化していければ、いいよな」
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