第1章

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 大学に進学すると言うと、次の日、机が用意されていた。  こんなに良くしてもらうと、恐縮してしまう。  しかし、御形の両親とは一つ約束があって、食事は一緒にして欲しいと言われた。俺は、仕事の内容を変え、夕食を取ってから仕事に向かうよう切り替えた。  連の仕事の手伝いをする約束をしていたので、その日は蓮の占いの館に顔を出した。俺は、占いは全くできない。何度か、姉に手解きを受けたが、それらしいコメントが全くできなかった。  姉曰く、相手の欲しがる言葉を察知する能力が無いのだそうだ。  占いの館に近寄ると、女性が列になって並んでいた。深刻そうにうなだれて泣いている女性もいれば、友人と笑い合っている女性もいる。裏に回り、聞いていた暗証番号で、ドアロックを解除し中に入る。中は暗くなっているが、俺は夜目が効く方だ。多少の暗さならば問題ない。  ビロードのカーテン、それも赤を避けて、蓮の場所に近寄ると、泣いている女性とすれ違った。  中は、蝋燭の光が揺れて、水晶が幾つも飾られていた。香の匂いが充満している。 「アルコール依存症の彼氏と別れた方がいいとアドバイスしただけだ」  連が、雰囲気に固まっている俺に、苦笑いしていた。蓮、全身黒で纏めた服に、マントまで付けていた。 「呼び出してごめん。黒井、ちょっと過去を見て欲しい人が数人居てね」  カーニヴァルのような、羽の付いたマスクと、赤いマントを差し出された。聖水と書かれた水も用意されていた。 「じゃ、よろしく」  入って来た女性は、物凄い美女だった。でも不安気で、傍に寄り添う男性にしがみついて歩いていた。  連の前の椅子に座っても、蓮を見ようとせずに、付き添う男性の顔だけ見ていた。 「聖水をかけます」  連の合図で、俺はボトルの水を、傍に活けてあった花と葉にかけ、水を飛ばした。  華やかなスポットライト、舞台の中央に立つ自信に溢れた女性。自分は主人公。勝気で、主人公だけしか興味のない性格。順調な仕事だった。順調な人生だったはず。ある日、男が近寄ってきた。こうすれば、あなたの人生はもっと良くなる。その通りに動いたら、良くなった。もっともっと有名になりたい、お金が欲しいと思う内、自分の考えを無くしていた。そして、その男はアドバイス料の名目で女性の全財産を持って居なくなっていた。今、一緒に居るのは心配した弟だった。
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