第1章

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『詐欺事件。警察が良いかと思う』メモに細かに全容を書いた。  それらしく蓮は先方に告げ、弁護士を付けることと、警察に行くことを承諾させた。 「次も頼む」  次に入ってきたのは、小さな少女だった。聖水を掛けると、嫌がってハンカチで何度も拭いていた。  年齢二十五歳。成長せず。未来が不安。未だに両親に、小学生のような恰好をさせられていて、それを嫌だと言い出せずにいる。仕事ができず、親からのおこずかいで、生活している。彼氏ができたが、ロリコンだった。  メモにその通りに書いたが、コメントのしようがないだろう、と、思っていたら、案外まともに蓮が話していた。  自立すること、今の体で出来る仕事があること。人間関係を大切にすること。 「今日は、ここまででいいよ。助かった、この二組が今日の難所だったから」  疲れた。俺が、ぐったりと裏口から外に出ようとしたとき、体当たりしてきた男が居た。 「俺の女に別れろ、なんて助言しやがって!」  逆恨みか。しかし、腹部に熱い感触が走った。血が噴き出て、手で抑えると、ボタボタと地面に血が滴った。刺されたか。 「殺してやる」  再度、ナイフを振りかざしたが、真正面からならば簡単に避けられる。ナイフが小さかったおかげで、傷は深くはないが、長く切られていた。  男の内面は、揺らいでいる。女に見捨てられたら、もう誰も居ないと叫んでいた。 「大切ならば、大切の仕方を覚えて欲しい」  腹部の痛みよりも、流れる血が下半身を真っ赤に染めているのが気になる。着替えどうしようか? 「女を泣かせない男になれ」  男に暗示をかける。なるべく短い言葉を選んで暗示を掛けなければならないが、どんな効き目になるかは、いつも未知数だ。 「うわあ」  男が、突然正気になり、叫びながら走り去って行った。 「どうした、黒井?」  ドアから覗いた蓮が、事態をすばやく察知した。 「おい黒井?医者に行くか?」  俺は首を振る。医者に行ったら、警察に通報される。占い稼業は人気商売だ。刺されるなんて、ダークなイメージが付いたら、ここで商売できなくなる。 「治癒能力は高いから大丈夫だ。けど、着替え用意してない」  朝食までに、御形の家に帰らないと。  怪我を塞ぐ、その後の眠さに負けて眠ってしまうと、朝になっていた。蓮が借りているアパートで目を覚ますと、蓮も目を覚ました。 「着替え、何か、あるか」  血まみれでは帰れない。
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