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「適当に着てくれ」
何着かの、服を差し出されたが、どれも微妙に大きい。そのまま着込み、走り出そうとすると、眩暈がした。貧血だ。
「送るよ。本当にごめんな」
蓮の車で、御形の家に送ってもらったが、朝食の時間は過ぎていた。土曜日なので、学校は無いが、既に十時近い。
恐る恐る、庭から入ろうと部屋のドアを開けようとすると、開かなかった。中を見ると、不可と赤字で札が張られ、ひもでドアがくくられていた。札の文字は、御形の母親のものだった。
玄関にそっと入ると、けたたましいブザーのような音が鳴った。
「典史!」
御形の父親が走ってきて、俺の前に立ちはだかった。その後ろに、ほうきを持った御形の母親が、すごい形相で立っていた。
「事情があったのだろ。まず聞こうな」
御形の父親が、俺を庇ってほうきに殴られていた。
「電話ひとつ掛けられない訳ないでしょ」
御形の母親、怖い。いつものおっとりとした雰囲気からは、想像できない姿だった。
御形の父親が後さずり、俺にぶつかって転んだ。
俺は、支えきれずに見事に下敷きになってしまった。
「痛!」
これはまずい、慌てて塞いだので、傷がまだ繋がっていなかった。押さえた手に、じんわりと温かい感触がある。傷が開いている。
「約束守れなくて、ごめんなさい。実家に帰ります」
早くこの場を逃げなければ。
素早く後ろを向き、走り出す。本格的に傷が開き、ドクドクと血が流れ出していた。
俺は足が速い方だ。しかし、やや貧血になっていた。
「志信!典史ちゃん捕まえて!」
御形に追いつかれていた。
「御形、頼む。見逃してくれ、ちょっとヘマして怪我しちゃって…心配かけたくない」
既に服から手に、手から地面に血が滴っていた。御形が、俺を逃がそうとしたとき、既に御形の母親が、前を塞いでいた。
「怪我をしたなら、まず、家に帰ってきてね。遠慮なんてしないで」
実の親からも、そんな台詞を聞いたことはない。怪我は、日常茶飯事だった。
「…お願い」
御形の母親が、俺の肩にしがみついて、涙を流す。怒られるよりも、こっちのほうが堪える。
「ごめんなさい」
必死で謝ってしまった。
寝ていれば傷が塞がる体質で、医者に行きたくない事情も話したが、中々、御形の両親は了承しなかった。
やっと部屋に戻り、寝ころぶと、御形が傍らに居た。
「いい人たちとは付き合えない、なんて言うなよ」
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