第1章

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「適当に着てくれ」  何着かの、服を差し出されたが、どれも微妙に大きい。そのまま着込み、走り出そうとすると、眩暈がした。貧血だ。 「送るよ。本当にごめんな」  蓮の車で、御形の家に送ってもらったが、朝食の時間は過ぎていた。土曜日なので、学校は無いが、既に十時近い。  恐る恐る、庭から入ろうと部屋のドアを開けようとすると、開かなかった。中を見ると、不可と赤字で札が張られ、ひもでドアがくくられていた。札の文字は、御形の母親のものだった。  玄関にそっと入ると、けたたましいブザーのような音が鳴った。 「典史!」  御形の父親が走ってきて、俺の前に立ちはだかった。その後ろに、ほうきを持った御形の母親が、すごい形相で立っていた。 「事情があったのだろ。まず聞こうな」  御形の父親が、俺を庇ってほうきに殴られていた。 「電話ひとつ掛けられない訳ないでしょ」  御形の母親、怖い。いつものおっとりとした雰囲気からは、想像できない姿だった。  御形の父親が後さずり、俺にぶつかって転んだ。  俺は、支えきれずに見事に下敷きになってしまった。 「痛!」  これはまずい、慌てて塞いだので、傷がまだ繋がっていなかった。押さえた手に、じんわりと温かい感触がある。傷が開いている。 「約束守れなくて、ごめんなさい。実家に帰ります」  早くこの場を逃げなければ。  素早く後ろを向き、走り出す。本格的に傷が開き、ドクドクと血が流れ出していた。  俺は足が速い方だ。しかし、やや貧血になっていた。 「志信!典史ちゃん捕まえて!」  御形に追いつかれていた。 「御形、頼む。見逃してくれ、ちょっとヘマして怪我しちゃって…心配かけたくない」  既に服から手に、手から地面に血が滴っていた。御形が、俺を逃がそうとしたとき、既に御形の母親が、前を塞いでいた。 「怪我をしたなら、まず、家に帰ってきてね。遠慮なんてしないで」  実の親からも、そんな台詞を聞いたことはない。怪我は、日常茶飯事だった。 「…お願い」  御形の母親が、俺の肩にしがみついて、涙を流す。怒られるよりも、こっちのほうが堪える。 「ごめんなさい」  必死で謝ってしまった。  寝ていれば傷が塞がる体質で、医者に行きたくない事情も話したが、中々、御形の両親は了承しなかった。  やっと部屋に戻り、寝ころぶと、御形が傍らに居た。 「いい人たちとは付き合えない、なんて言うなよ」
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