第1章

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 新田の祖母の家を後にして歩き出すと、何故か御形も一緒に歩いていた。御形、犬の動きを追っていたように感じる、霊が見えているはずだ。 「もしかして、黒井。霊が見えないのか?」  閑静な住宅街と言えば聞こえがいいが、無機質に整った綺麗な街並みを歩いていた。駅に向かっているはずだが、なかなか駅が見えてこない。御形に説明するのは、苦痛だ。 「いや、霊を認識できないが、実体化できるのではないのか、もしかして」  正解です。俺は、他にも色々あるが、灰を媒介として、何故か霊を実体化してしまう。犬の時は、半透明の物体止まりだったが、時間を掛けると、生きている状態と見分けが出来ないくらいにまで実体化できる。  霊を実体化して見せるというのは、反則技だが、時には有効となる。 「もしかして本物なのだな、黒井一族って」  本物とか、偽物とかがあるのか? 「今度、俺の家にも来てよ」  無言をいいことに、御形があれこれ言ってくる。俺は、駅が見えたとばかりに、走り出した。 「絶対、俺の家にも来い!」  御形、口調が命令になっていた。  で、次の日から、俺は御形を無視しようと頑張ったのだが、御形はあちこちに現れる。学食に並べば、前か後ろに居る。学食で座ると、隣に居る。その度に、いつ家に来るのか?と催促される。俺が限界にきていた。  帰宅しようと駅に歩いていると、御形が隣に現れた。 「御形…今度の土曜日でいいか?」  学校のアイドルの御形に付きまとわれると、俺の平穏な生活に支障が出るのだ。限りなく皆と関わらず、誰からも関心を寄せられない、静かな生活が俺の希望だ。 「本当!やった!」  細い路地を通り駅へと抜ける。その通りには、同じ学校の生徒しかいない。幾人もが、俺と御形の組み合わせを、不思議そうに見てヒソヒソと噂話をする。 「朝八時に家に行く。滞在時間は一時間」  俺にもスケジュールがある。許されている時間は、移動時間を抜かすとそうなる。 「短いね」  急に御形の声のトーンが低くなった。 「仕事があってね」  嘘ではない。俺は自分の生活費を、自分で稼いでいる。十時からは、祖母と一緒に現場に行かなければならない。恐らく、長丁場になると祖母が言っていた。日曜日の夜までには、帰りたいと思っている。 「ふうん」  明らかに御形が不機嫌だった。御形、他の人には、こんなに不機嫌そのものの表情はしない。
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