第1章

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 しかし、俺の家も辺鄙だが、御形の家も辺鄙な場所にあった。街を抜け、森のような両側に木々の茂る一本道を抜け、更に急な山道を登る。  山道の先に、城のような巨大な寺が浮かびあがる。観光地でもないのに、寺がライトアップされていた。  門の前にバイクを止めると、メモを見ながら御形に電話を掛けた。 「御形。今、門の前に居る。どこに向えばいい?」  門の中を見ると、巨大な寺で住んでいる家がどれか分からなかったのだ。 「今、門に向かう」  ジャージを着た御形が、走って門に現れた。 「バイクで来るとは思わなかった。田舎だから電話を受けたら迎えに行こうと思っていたけど」  俺も、こんなに離れた場所にあるとは思っていなかった。土曜日だったら、電車で来て駅で悩んだことかと思う。 「とりあえず、家へ入るか」  門から寺の横を抜け、更に奥に向かった先に、御形の自宅らしい住宅が見えた。大きな庭園があり、料亭のような造りの家に灯りが幾つも灯っていた。庭もライトが灯り、幽玄な姿となっている。おまけに、近くの竹林まで、ライトアップされている。もしかして、ライトアップの好きな家なのだろうか? 「ライトアップ好きなのか?」  観光客が居るわけでもないし、しかも深夜だ。電気代金のムダではないのか。 「友達が来ると言ったら、家族が張り切っちゃって」  俺は、御形の友達ではない。他に誰か訪ねてきているらしい。  駐車場にバイクを止めていると、悲鳴が聞こえてきた。 「きゃあ。可愛い人形みたい」  バイクを止め見回したが、入り口が分からなかった。御形の姿を探すが見当たらない。駐車場の先は庭園だ、まさか庭園の先が玄関なのだろうか。少し歩いてみたが、どこに玄関があるのか分からなかった。  家には来た、約束は果たした。疲れたし、帰るか。バイクに戻り、ヘルメットを被った。 エンジンを掛けると、門の方向へとバイクをターンさせた。 「志信(しのぶ)、友達、帰るよ!」  志信?御形の名前のような気がした。早く帰ろう。  走り出したバイクの先に、人影が飛び出してきた。危ない、バイクは人を避けて、砂利の中に突っ込んだ。 「どうして、帰ろうとしている!」  飛び出してきたのは、御形だった。 「家には来た。もう帰っていいだろ」 「まだ家には来ていないだろ!」  御形が怒っている。仕方なく、又、ヘルメットを取った。
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