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今度は、駐車場でバイクを止めるのを御形が見張っている。
「こっちが玄関」
竹藪の中に、玄関があった。和風の玄関で、何故か自動ドアが付いていた。玄関の中に入ると、真正面に巨大な活花が飾られていた。
虎の描かれた衝立もある。
「おじゃまします」
時間は深夜だ、そっとお邪魔しようとしていたが、がやがやと人がこっちに向かってやってきた。
「いらっしゃい」
和服の女性は、御形の母親のようだった。
「すいません、こんな夜分に、直ぐに帰りますので」
御形に睨まれた。
「ゆっくりしていってくださいな。黒井さんとこの息子さんでしょ。お母さんに電話しときますから泊まっていってね」
奥の扉から、ヒソヒソと声が聞こえている。
「電話しないでください。母を心配させますので。それに、俺一人暮らしですので、いつ帰っても大丈夫ですから」
ピカピカに磨かれた床、上品な御形の母親。俺は場違いだった。
「だあ、我慢できない」
奥の扉から、女性が飛び出してきた。女性の後に、ピカピカ頭の男性二人が作務衣を着てこちらを伺っている。御形の父親と、祖父といったところだった。
「黒井典史君でしょ。写真でしか見た事なかったけど、実物は写真よりもいいね。志信がね、やっと本物を見つけたって言うから、家族全員興味深々でね。いつも志信、彼女も友達も深入りさせないしね」
女性は、御形の姉らしい。弾丸のように話しかけてくるが、俺に返事は求めていないようだった。姉は母親と並ぶと、双子のように似ていた。
「しかし、母さん!この子人形みたいよね!陶器の肌。目もぱっちりで、かわいい!将来は美人になるわよね!」
女性は母と手を繋いで、声を合わせて感動している。悪魔のようだとは言われるが、人形のようだとは初めて言われた。
「姉さん、母さん。ちょっと煩い」
御形が俺の手を掴み、廊下を歩きだす。
「一穂」
父親らしき男性の足元から、小さな男の子が出てきた。
「一穂、この人が黒井典史君」
御形が、手を差し伸べると、男の子がちょこんと頭を下げて出てきた。
「こんばんは」
俺が挨拶をすると、小さな手を出してきた。握手の意味かと、手を握ると、手が濡れていた。部屋の奥を見ると、コップが置いてあった。ジュースの結露か。
しまった。咄嗟に思ったが遅かった。
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