第1章

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 今度は、駐車場でバイクを止めるのを御形が見張っている。 「こっちが玄関」  竹藪の中に、玄関があった。和風の玄関で、何故か自動ドアが付いていた。玄関の中に入ると、真正面に巨大な活花が飾られていた。 虎の描かれた衝立もある。 「おじゃまします」  時間は深夜だ、そっとお邪魔しようとしていたが、がやがやと人がこっちに向かってやってきた。 「いらっしゃい」  和服の女性は、御形の母親のようだった。 「すいません、こんな夜分に、直ぐに帰りますので」  御形に睨まれた。 「ゆっくりしていってくださいな。黒井さんとこの息子さんでしょ。お母さんに電話しときますから泊まっていってね」  奥の扉から、ヒソヒソと声が聞こえている。 「電話しないでください。母を心配させますので。それに、俺一人暮らしですので、いつ帰っても大丈夫ですから」  ピカピカに磨かれた床、上品な御形の母親。俺は場違いだった。 「だあ、我慢できない」  奥の扉から、女性が飛び出してきた。女性の後に、ピカピカ頭の男性二人が作務衣を着てこちらを伺っている。御形の父親と、祖父といったところだった。 「黒井典史君でしょ。写真でしか見た事なかったけど、実物は写真よりもいいね。志信がね、やっと本物を見つけたって言うから、家族全員興味深々でね。いつも志信、彼女も友達も深入りさせないしね」  女性は、御形の姉らしい。弾丸のように話しかけてくるが、俺に返事は求めていないようだった。姉は母親と並ぶと、双子のように似ていた。 「しかし、母さん!この子人形みたいよね!陶器の肌。目もぱっちりで、かわいい!将来は美人になるわよね!」  女性は母と手を繋いで、声を合わせて感動している。悪魔のようだとは言われるが、人形のようだとは初めて言われた。 「姉さん、母さん。ちょっと煩い」  御形が俺の手を掴み、廊下を歩きだす。 「一穂」  父親らしき男性の足元から、小さな男の子が出てきた。 「一穂、この人が黒井典史君」  御形が、手を差し伸べると、男の子がちょこんと頭を下げて出てきた。 「こんばんは」  俺が挨拶をすると、小さな手を出してきた。握手の意味かと、手を握ると、手が濡れていた。部屋の奥を見ると、コップが置いてあった。ジュースの結露か。  しまった。咄嗟に思ったが遅かった。
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