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一穂の人生が走馬灯のように、俺の目の前を過ぎてゆく。赤子の頃から、入院、退院の繰り返し、原因不明で息が出来なくなる。幼いのに、諦めきった表情、よく出来た性格。外を眺めて過ごす日々。一人で居ると、ここで発作が起きたらと恐怖にかられている。病院の壁、壁、壁。苦しくて、見る壁。
祟り?
「俺を呼んだのは、これか?」
御形を見る。御形は、一穂の青い顔を心配そうに見ていた。
「やっぱり、他にも能力があるのか」
水を媒介にして、触れた人の過去を見る。
「霊能力者は、病気に対して、意見はしない。俺は、偽の霊能力者だけど、人を治すのは人の分野で、神の分野でさえないということは、肝に命じている。同じように、病は、祟りから発生するわけではない」
「祟りじゃないと言って貰えるだけで、助かる」
御形が小声でつぶやく。
「一穂君」
俺がしゃがんで手を広げると、一穂が腕の中に飛び込んできた。
しょうがない、もう一つの誰にも言えない特技を披露してあげよう。
「君の病は治る」
不安に共鳴し、共鳴ついでに相手に強い暗示を与えてしまう、言葉の能力。言葉や共鳴を媒体に力が出てしまうのは、ある意味、危険過ぎて、親にも内緒にしている。
「ありがとう黒井君」
祖父らしい人物が、涙を流していた。
「本当、どうしてだか涙が出る。誰かに治ると言って欲しかったのかしら」
この家族、共鳴能力が高過ぎる。とすると、一穂の病の謎が解けたような感じがした。
「明日、祖母に連絡します。一穂君の発作を何とかしてくれるかもしれません」
一穂、誰かの死と共鳴してしまっているのだ。共鳴を解くのは、祖母が得意としている。
「黒井、お前の能力。自分で言うような偽ではないのだろ?」
いや、俺の能力は偽でいい。霊能力者のふりをした詐欺師で充分だ。
第二章 御形家の人々
案内された御形の部屋は、庭園に面した一階にあった。窓の外にはライトアップされた庭園。とても一般家庭ではない。
「志信、飲み物持ってきたよ」
深夜だというのに、御形の家族も賑やかだった。
「放っておいてくれ」
廊下には、御形の姉と、父。部屋の中をしきりに覗いていた。
御形の部屋は広く、二十畳はある。その一角のみ畳を敷いてあり、寛げるようになっていた。他はフローリングになっている。
畳に座布団を敷いて座ると、庭を眺めていた。物凄く眠い。
「黒井、眠っているぞ」
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