34人が本棚に入れています
本棚に追加
「嗚呼良かった。目が覚めましたね」
桃太郎がにこりと笑った。慣れ親しんだ我が家の風景に滑らかに溶け込むその笑顔。
「じいさん、目が覚めましたか」
「ばあさん……」
「桃太郎が無事に帰って来ましたよ。村の財政を救うために、財宝も奪ってきたって、」
「何故だ!!」
きゃあ、とばあさんが悲鳴を上げる。隣で桃太郎も目を見開いている。
「何故宝を奪ったのだ!」
「何故って、おじいさん。あの宝は近くの村の人々から奪った物ですよ?」
「それなら元の持ち主に返せば良かろう!」
「いや……御礼にと持たされてしまって……」
怒りで頭がいっぱいになる。どうして、何故、解らない、
「それに……」
吾にはもう、桃太郎が桃太郎には見えなかった。
「村も……これで飢えないでしょう?」
人の物を人から奪う。
「おじいさん、ずっと悩んでらしたじゃないですか。このままでは飢えてしまうって」
―――さながら、鬼子のように。
「おじいさんの悩みも消えましたし、村の財政難もなくなりましたし、一石二鳥ですね」
最初のコメントを投稿しよう!