34人が本棚に入れています
本棚に追加
【六】
いつものように、山から村を見下ろしている。
「……」
桃太郎が鬼から奪ってきた宝のお陰で、村は豊かになった。鬼を退治たという事で謝礼も降りた。
しかし。
これで―――合ってたのか。
犠牲の上で成り立つ豊かさなど。
「おじいさーん!そろそろかえりましょう!」
「……応」
柴をたくさん背負っている桃太郎に頷く。あれ以来、桃太郎は荒れ事に手を出す訳ではなく、吾の仕事を手伝っている。
まるで、鬼退治に出る前の穏やかな日々のように。
けれども。
「おじいさん、どうかしました?」
「否。……村が、豊かになったな」
「えぇ、そうですね。珍しく鬼が役に立ちましたね」
「鬼は―――悪か」
「……?えぇ、勿論ですとも。だからわたしは鬼退治をしたのですよ」
「宝を奪い―――か」
「略奪した物を奪って何が悪いと言うのですか。きちんと元の持ち主から許可も貰っているのですよ」
「そうだったな」
桃太郎は人外だろう、と長は言った。
神か仏か―――
人外には、鬼もいると言うに。
何故、その可能性に気付かなかったのだろう。
「……帰るか」
「是!」
しかし吾には今の村の平和を壊す事は出来無かった。
穏やかに笑う桃太郎を誰もが信じてる中、吾だけが桃太郎に鬼の幻影を見てる。
【終】
最初のコメントを投稿しよう!