第1章

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【壱】 かんっ、かんっ、と乾いた音が静まり返った山に響く。刈り終わった枝を拾い集め、背の籠に乗せる。ずしりと荷が重たくなり足元がふらつくが、ぐっと力を込め、山を降りていく。 山は登るより降りる方が難しい。荷物があるなら尚更。 「……今年の冬は、」 言いかけ、終わりまで言わずに言葉を飲み込む。悪い言葉は悪いことを呼び寄せる。確定していないことなら、言わないに過ぎない。 代わりに、 「坊はなにをして待ってるだろうか」 呟くと、途端に足取りが軽くなった。己の現金さに少し笑う。 少し濡れた枯葉をぐっと踏む。もう冬将軍の膝元が降りてきていた。今年の冬は早い。それはつまり実りの秋が短かったということで、それはつまり餓えが近くにあるということ。 今年の冬は、 ……越せるだろうか。 【弐】 数年前、媼が川から拾ってきた桃から、男児が生まれた。 これだけでも信じられない話だろうが、更に信じられないのは、その赤ん坊が数月で十の年頃まで育ったことだろうか。
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