第1章

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働き者に育ち、顔立ちだって悪くない。きっと器量の良い女子を嫁に取り、しあわせに暮らすのだろう。 ……今年の冬を、越せれば、だが。 「……詮無いな」 大きく頭を振って、眼下に広がる村の家々を眺める。吾らの家はここからでは見えない。山で刈った柴を売ることを生業としている吾らの家はこの山の麓にあるため、ここからでは見えないのだ。 「……」 今度こそ、立ち止まらずに山を降りた。 【参】 「ならぬ!!」 己の怒鳴り声に、媼が小さく悲鳴を上げる。そんなことは今はどうでもよい。そんなことより――― 「聞いてください、おじいさん。わたしは鬼ヶ島まで行って、鬼を退治てきたいのです」 「ならぬ」 「何故で御座いましょう」 「それを聞きたいのは吾の方だ。何故そのようなことを急に言い出す」 家に帰った吾に、坊が打ち明けてきた話は「鬼ヶ島に鬼退治に行く」というものだった。 ここ最近、吾の仕事も手伝わずに塞ぎ込んでいると思ったら、こんな馬鹿げたことを。
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