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困り果てたように、坊が頭を掻く。みづら結いの髪型は、がっしりとした体型の坊にはあまり似合っていなかった。
「……おじいさん、この間やって来た旅人の話を聞きましたでしょう。鬼の横暴は日々酷くなる限り……」
「それは聞いた。しかし、何故」
「わたしはおじいさんとおばあさんに拾われて育ちました」
「……」
「その恩を返すには、世の為人の為に生きたいのです。その為にも、是非、わたしを鬼退治に行かせてください」
「……」
「止めたってわたしは行きます、おじいさん!」
「……世の為人の為というなら、仕方あるまい」
ぱっ、と坊の顔が明るくなる。がばりと手をつき、頭を下げる。
「有難う、おじいさん!必ずや鬼を討ち取ってきますが故!」
「世の為人の為だぞ、忘れるでない」
「はい!」
ばたばたと坊が外へと駆けて行く。その背中を眺めてから、後ろで座っているであろう媼に声をかける。
「ばあさんや、黍団子を作ってくれるか」
「はい、よろこんで」
後ろから軽い足音がした。今すぐに黍団子を作り始めるのだろう。
「……ばあさんや」
「はぁい?」
「坊の名前を付けてやらねばならぬな」
「そうですねぇ」
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