34人が本棚に入れています
本棚に追加
「……よし」
やらねばならぬことがたくさんある。坊の準備を手伝わなくてはならないし、冬の支度もしなくてはならない。
坊の旅路がどれくらいかかるのかは解らない。鬼ヶ島まで半月程度で辿り着くから、最低でも一ヶ月はかかる。金はなんとか用意してやれるだろう。しかし鎧兜は、刀は。
考えることがたくさんだ。
「……なんとかせねばならぬな」
木枯らしがひゅうと吹いていった。
【四】
かちっ、かちっ、と坊―――桃太郎の背中で火打ち石が二回鳴る。
「それでは、行ってきます」
長から譲って頂いた鎧兜が朝日を反射する。きりりと引き締まった表情は、親の欲目を抜きにしても頼りがいのあるものだった。
「必ずや、戻って参れ」
「はい、長。この鎧兜と刀に誓いましょう」
「うむ。……して、父母からは」
ちらりと長が吾を見る。
「……世の中、人の為、だ」
「はい。必ず鬼を退治てきます」
「……ばあさんや」
最初のコメントを投稿しよう!