第1章

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家に帰るまで我慢する気だろうか。即実践型の理央には理解しがたいが、この男ならありえそうだ。 「リオは俺のことどう思ってる?」 「酔ってるのか?」 「酔ってるけど。聞きたいの。」 「イイ男だなって、思ってるよ。」 平静を装ってはいるが、心臓がバクバクとマサに聞こえそうなほどに高鳴っていた。 「俺。リオとしたい。」 繋いだ手がぎゅうっと握りしめられる。 (あぁっ…っ。) 心がキューンと締め付けられるような感覚だった。 それはアッチの経験ばかり豊富な理央が、生まれて初めて体験する心の高揚だった。 「こういうのって。「俺、リオが好きだ」とか言うほうが先なんじゃないの~?」 常磐線の快速で上野から20分。 九月始めの蒸し暑い夜。駅からの道すがら、理央はやや意地悪気味に言ってみる。 「リオのこと…好きだよ。でも、だって…俺、良くわかんなくて。…でも残業がない日に会いたいのはリオだし。いま触ってほしいのも…リオなんだ。」 「お前は俺と同族なんだよ。男に発情すんの。」 理央は汗ばんできたシャツに耐え切れず、ネイビーブルーにドット柄のネクタイを緩めて、シャツの第一ボタンをはずした。普段ならさらりと耳にかかる髪が汗でメガネのフレームに張り付く。首を振って振り払うと、それだけで見るものを誘惑するような色気のある仕草だった。だが理央にしては意外なことに本人無自覚の癖で、じっと見つめるマサの心境にも気付いてはいなかった。 「試験会場で初めてリオを見たとき…、なんか目が離せなくなっちゃって…。だってズルイじゃん。小柄で色白で気さくで笑うと可愛くて、俺がメガネフェチなのも知ってるんじゃないかって。」 「知らねーよ。」 (なに言っちゃってんだよ。そんな…まるで俺に一目ぼれしたみたいに。) 「ズルイのはマサのほうだよ。そんな男前でさ。俺のことよく飲みに誘ってくれるわりに俺からの誘いには乗ってこなかったりしてさ、俺ひとりで混乱してばっか。」 そうなのだ。何気ない理央の誘いに気付かないフリをしているのか本当に気付いてないのか、これまであっさりかわされること十数回。さすがの理央もソノ気がないのだと諦めかけていた。なのに今日突然の「リオとしたい」発言だ。混乱しないワケがなかった。 「え? 何が?」 「わかんないならいいよ。」 (好きだよなんて、いまさらそんな困った顔で言うなよ。)
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