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斜め前の席にいる同性の襟足から背中を、理央は舐めるように見つめた。身長は180くらいだろうか、着席前にチラリと見たが、細身のスーツが似合う精悍な顔立ちのヤツだった。日に焼けた肌はサロンなどではない自然の色合いで、アウトドアスポーツをやっているのだろう、そう思わせる細身ながらも締まった筋肉のついた胸板、腹筋が、その姿勢の良さで服の上からでも十分にうかがえた。髪型は最近には珍しい短髪で、噛み付きたくなるような耳たぶが理央を誘っている。
(帰りに声、掛けちゃおっかな。)
理央は物怖じしない。いつでもどこでも、即ハンティング態勢になれるのだ。
「あのっ…これ。」
「え? あっごめん。…ありがとう。」
理央は試験が終了すると、退席しようとするヤツの目の前で布製のペンケースを落とした。こんな古典的なやりかたも、ありえないだけに意外と有効だったりする。
「試験、できた?」
ヤツの机にカバンを置いてペンケースをしまいながら尋ねた。
「え。あ、うん。」
「へぇ。凄いね。自信あんだ?」
「と、思う。」
見れば見るほどイイ男だった。白衣を着せたら月9のドラマで大学教授役をやってたアーティストに似ていそうな。色っぽい瞳に薄い唇。すっと通った鼻筋に男らしい頤のライン。
理央は会話の間があいても長身のその男をじっと見上げていた。
「キミは…どうだったの?」
すぐに話を切り上げて帰ってしまうかと思っていたが、不思議なことにその男が聞き返してきた。しかも理央の顔をじっと見つめながら。
「俺? だめ。途中で諦めた。」
「そう…なんだ。」
「うん。鍋の個数とか、なかなかおもしろかったけどね。」
「あの問題が面白いって言えるんなら、十分出来たでしょう?」
「まーね。」
「ぷっ。わざとなんだ。」
理央が視線をあさっての方向にして悪びれず答えると、その男の顔が和らいだ。
「だって。ココ、絶対残業多いぜ。」
「え? なんでわかるの?」
イケメンの顔をもっと近くで見たくて、小声で話しかけた。すると向こうも屈むようにして小柄の理央に顔を寄せて聞き返す。ちょっと上目使いに見つめて「俺の勘」とウインクすれば、薄く照れながら「へぇ」と笑ってくれた。
「俺、遠山理央。親以外にはリオって呼ばれてる。」
「俺は宮瀬将人(みやせ まさと)。宮瀬って言い難いみたいで、マサって呼ぶやつが多いかな。」
「マサはここで何社目?」
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