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「三社目。リオは?」
「五社目。実はもう内定貰ってるのがふたつある。」
リオが鞄を持ち上げて出口を指差しながら答えると、マサが頷いて一緒に出口へと向かう。
「まだ受けるつもり?」
「そーねー。そろそろいいかな~。」
「ねぇ、今日。このあと時間ある?」
なんと、誘ってきたのはマサのほうだったのだ。
※ ※ ※
「俺、あんとき絶対ゲットだと思ったのにさぁ~。」
「え? 違ったの? だってリオ誘われたんでしょう?」
「アキもそう思うだろ~?」
ここは新宿二丁目のバー。白芥子(しらげし)。所在地からもわかる通り、客の九割がソッチ系の男性というこの界隈では人気の洒落た店だ。
「でもアイツ、近所のファミレスで三時間、みっちりテストの答え合わせ付き合せたんだぜ。この俺に。」
「うわ~…。真面目なんだねぇ、マサさんって。」
「ちっげーよ。あれはめちゃくちゃマイペース人間なの!」
「そうなの?」
「そう! 自分の回答がどうだったか、早く知りたかっただけなの!」
白芥子の専属ピアニストであるアキは、開店前の店の床に軽くモップをかけている。もう少ししたら指慣らしを始める時間だ。週に数回やってくる友人はカウンターに座ってアキの作業を邪魔しない程度に話しかけていた。
このふたりは数年前、たまたま新幹線の中で出会った。同性を愛するという同じ性癖でありながら一度も一線を越えたことはなく、数年経った今でもじわじわと友情を育んでいる。
「じゃあ、本格的に二人が付き合い出したきっかけって?」
今日は前々から気になっていたアキが、理央とその恋人との馴れ初めについて話題を持ちかけたのだった。
「一応、その試験の日にメアド交換してたから。…その後マサが俺と一緒に受けた会社に受かったからそこに就職するって、連絡くれて、俺も内定もらってたトコで決めたって連絡したら、じゃ、とりあえず就職祝いで飲もうって話になって…。」
「そこでやっと?」
モップがけが終わったアキは、手を洗って理央の隣に座り、指のマッサージをしている。
「いや…。その日も文字通り飲んだだけで。」
「なんか…リオらしくないねぇ。俺のことは新幹線の中で口説いてきたくせに。」
そうなのだ。アキと初めて出合った日もぬかりなく、理央は偶然隣の席に座ったアキの性癖に気付き、ハントしようと試みたのだった。
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