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黒い髪に夕焼けのような朱色の瞳をした高等部の先輩は、ピアノ椅子に腰かけてアタシに視線をむけていた。
その視線は刺すように鋭くて、凍るように冷たい。
「お前が梅野ウツロだな」
どうしてアタシの名前を知っているのか、までは考え付かないけれど、首を縦に振ると、先輩は椅子から立ち上がる。
「もう、二度と歌うな」
警告のような、脅されているような、切り捨てるような響きを持ったその言葉。
どうしてこの人に言われないといけないのか、今まで歌っていたことを咎められたことは一度もないのに、
「どうして?」
気が付くと、声に出していた。
「もう十分なハズだ」
「……まだ足りないの」
先輩から視線を外す、歌えば妹に会えるのだから、もう少し思い出に浸りたい、たくさん歌ってもまだ足りない、毎日歌い続けなければいけないのに。
「そうか」
先輩はため息をついてから、アタシの横を通りすぎて音楽室から出ていく。
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