渡し

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好奇心と生理的な欲望を満たそうと、数人の男たちが近寄ってくる。彼らの中でも、傍観者に徹しようと考える輩もいるようだ。成り行きを酒の肴にして楽しむつもりだろうか。 ヒガンと名乗った女は微かに舌を一度鳴らした後はむしろ、楽しそうに男どもを眺めていた。それは最初の男が女の着物に手を伸ばした刹那。 ジャランッ 鋼が重なり合うような音がした。 「うおっ」 男の呻き声と共に血が流れる。何か刃物のようなものが一閃したのは確かなのだが。女は、何事もなかったかのように残りの酒を呷って哂う。 「どうした?」 奇妙に、背筋に何か薄ら寒いものが走ったように幾人かの男は感じた。 酒場には、あわよくばと狙う者と無関心の者が存在している。一連の出来事の間に、特に前者に限って変化が訪れていた。酔漢どもは徐々に異形へと変貌しつつあった。 手の甲を負傷した男の傷口からは、朱ではない不気味な色合いの血が流れ始めていた。 「浮き世の体裁が保てないようだ。そろそろ酒が回り切ったか」 出来損ないの醜悪な獣の姿となった客たちが、各々迫ってきている。女は恐ろしい状況を眺めながら、平然と酒を臓腑におさめた。
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