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ドクンッ――ドクンッ――ドクンッ――
脈打つ衝撃は高鳴る胸の鼓動か。それとも情熱リズムか。
霞のかかる意識の中。明るいジャズの響きと共に天まで昇るような快感の余韻を味わっていた。
「………」
「…アキ?」
「………ん」
「だいぶ飛んでたみたいだね…平気?」
「…ん…まだ…」
「まだ…帰って来れないのかい?」
「……ん…」
クスリと笑う恋人の気配。
「ホントに。可愛いね…きみは」
ぐったりとした体を抱き寄せる腕に身を委ね、まだ整わない息に目を閉じる。背を預けた恋人の胸に全てをまかせると、まどろむ意識の中、少し強くなった雨音を感じた。窓から吹き込む風が先程より強い雨の匂いを運んでくる。すぅっと吸い込むと、胸がその匂いでいっぱいになる心地良さ――。
「……やっぱり正司さんは…雨…みたい」
内からも外からも。僕の心を惹きつけて揺さぶって離さない――。
「後でじっくり説明してもらうから。…今は目を閉じて。……ちょっと休みなさい…」
こめかみに落とされるくちびる。
「………」
返事をしたいのに、もう、声が出せなかった。
「愛してるよ…アキ」
(………)
いつも自分の答えられないタイミングで愛を囁く恋人に、目が覚めたら一番に教えてやろう。
僕が雨を好きな理由を――。
おわり
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