第1章 ドライバー

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 総務部役員付運転手ならば待機するのも仕事のうちとはいえ、 昨日会長付秘書から説明 を受けた通り、 講演が終わるまでの四時間弱を、 国際フォーラム地下三階の駐車場に停め たジャガーの運転席で本当に過ごさなければならないとしたら、 そろそろ転職を考えた方 が良いかもしれない、 と東条圭一はネクタイを直しながら胸の中で呟いた。 バックミラー には、 ネクタイの捩れは直したものの、 唇の端についた薄紫色のクリームを見逃していた 三十手前の男の、 疲れ切った顔が映っていた。 圭一はクリームを腹立たしげに指で掬った が、 それはさきほど空腹に耐えかねて飛びこんだ国際フォーラム一階の、 閉店間際のべー グルショップで注文したブルーベリークリームチーズサンドの名残であり、 甲高い笑い声 や楽しげな気分が飽和した店内の、 休日の昼下がりのように弛緩しきった空気を思い出さ せる味だった。
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