第1章 ドライバー

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 あらためて思うに、 一度待てと言われたら車が盗まれようともひたすら待ち続けられる ことが、 総務部役員付運転手に課せられた一方の義務であったらしい。 そうしてみると、 二十六歳で中途採用され、 桐谷常務のベントレーのハンドルを握り続けた圭一の三年間は、 もう片方の義務しか果たしていなかったことになる。 サーフィンの好きな鷹揚な性格だっ た桐谷常務を五分で迎えに行ける場所を流していれば良かった日々は、 欠員の出た唐木会 長の運転手に指名されたことで完全に終わりを告げた。 多忙であればこそ猫の目のように 変わる予定と、 猫のように気まぐれな唐木会長の運転手は、 噂に聞いていた通り、 入院し ない限り唐木の足としてひたすら消費されるらしい。 手当が倍増されたとはいえ、 昨日ま ではひどく自由だったのだと今更ながら懐かしく感じられる。
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