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前を見ろと言われれば、
そうするより他になかった。
渋滞はあいかわらず続いていたも
のの、
バックミラーに灯された青白い炎が目の中でちらついて、
どうしようもなく不快だ
ったからだ。
さらには、
角砂糖をのせた平べったいスプーンには小さな孔がいくつも穿た
れているらしく、
砂糖の雫がグラスの中へ少しずつ落ちていく仕組みになっているのはい
いとして、
グラスの液体の、
飲んだらプラスチックと鉄と接着剤の味がするに違いない、
青とも緑ともつかないおぞましい色が、
圭一をひどく滅入らせた。
そもそもオペを控えて
いるのにアブサンに陶酔したがる唐木はいったいなにを考えているのか、
本当にオペなの
か、
唐木ではなく実は秘書が執刀するのではないか、
秘書は誰のためにメイクを直してい
るのか――。
考えれば考えるほど苛立ちは増すばかりで、
圭一は、
サーティツービートで
クラクションを叩きまくってやりたくなるのだった。
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