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目の前に立つサラリーマンも、同じようにマフラーを緩めて、手袋を外すとカバンから単行本を取り出した。
ちょうど胸の高さにある彼の手は私の目線にピッタリで。
十数分間、私もその推理小説を彼と一緒に読んで過ごした。
パタンと閉じられた単行本に、落胆の溜息が漏れる。
ーーーもう少しで犯人、わかるのに……。
単行本にはカバーがかかっていて、題名さえわからない。
カバンへと姿を消そうとするその本を、睨みつけるように見ていた私の視線の先で、彼の手がピタリと止まった。
不思議に思って見上げた私と、私を見下ろす彼の視線が、バッチリと合ってしまった。
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