第三話

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「あなただったんですね。要君の携帯電話から、あたかも要君ご本人が送ったかのようなメールを送って来たのは・・・」 「そうよ。どんな気分だった?裸の女の写真送られて。自分の彼氏が自分の知らないところで他の女抱いてるって知って。悲しかった?辛かった?可哀想にね」 「勝手な事を言わないで下さい。私は、分かっています。・・・分かって、いるんです。始めから。だから、あなたに何を言われても要君とは変わらないでいられます。終わったりしません。では、失礼します」  何が何だか分からないままに。  それはどこか、始めて見た香織の怒ったような横顔だった。  「ちょっと待ちなさいよっ」何て言葉も振り切って。  いつもは俺が引いていた手が、今日は俺を引いていた。 「・・・っと待って・・・」  どうやら進んでいるのはあの、公園へと続く道。 「・・・香織・・・、かお・・・」  俺が名前を呼べば俺の手をパッと離して走り出してしまった。 「しばし・・・しばし待っては下さいませんか・・・、今は・・・ダメです・・・」 「香織っ!!・・・全力失踪は勘弁してっ!!追い付けないっ!!・・・香織っ」  追い付いてあげたい。  どうしても。  だけど、やっぱり速すぎて。 「・・・走るとか、反則だろ」  追い付けなくて。  何度か曲がり角で見失いそうになったり。  転びそうになったり。  そうして辿り着いた公園で。 「要君、お疲れ様ですっ」  笑っている、君がいた。  泣いては、いなかった。  じゃああれは?  見過ごして、いいの?  どうすれば、良かったのかな。  ごめん、何が正解で。  何が間違いで。  俺は、バカだから。  分からなかった。  ごめん。  ごめんね、香織。 「掴まえた」  ぎゅっと、抱き締めた。  何となく、泣いている。  そんな気がしたのに。  だけど、俺はバカで。ズルいから。 「布団がぶっ飛んだ。ドラム缶の上にあるミカン。新聞紙、トマト、たけやぶやけた」  ありったけの冗談を思い付くままに。こんな事しか思い付かないけど。
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