5人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
「あははっ、ちょっとずつ変ですよっ~最後の方はダジャレではなくどちらからよんでも同じになるって逆さ言葉ですっ」
「そっか。何かダメだな俺って」
それでも、笑って欲しかった。
君は、泣きたかったのにね。
「ダメなどではないです。それなら、私の方がダメダメなのです」
「え?」
その意味が、分からずに。
「そうでしたっ」
聞こうとすれば香織は俺の胸をそっと押して数センチの距離をとって、バックの中から四つに折り畳まれていた一枚の紙を取り出した。
「ジャーンっ!ですっ!!」
それを俺の目の前で広げて見せた。
「・・・夏祭り?」
そのチラシのど真ん中にでかでかと書かれていた文字を声に出して辿った。
「はい。この街が主催なのです。毎年、夏休みよりも少しだけ早めに開催されるお祭りで、弧児園の頃には演奏会などで参加させていただいていました。その・・・あまり大きなお祭りではないのですが屋台も出ますっ!花火だって上がりますっ!ですから・・・その、よろしければ・・・私と、一緒に・・・行っていただけないでしょうかっ」
ペコリと頭下げる。
やっぱり、ストレートの春より少し伸びた髪がハラハラと俺の前でその軌跡を描いてく。
だから自然と、重なった。
あの日。
春の屋上で、君と、出会った事。
君の『付き合って』で始まった事。
君が名前を教えてくれた事。
俺にたくさんの始めてを・・・。
くれた事。
「行こう、行こうな。絶対っ」
自然と笑みがこぼれる。
こんな、気持ちも。
全部全部、香織がくれたんだよ。
俺の返事に、安心したように。
笑う顔。
ずっと、見ていたいな。なんて。
これも。
ずっと、笑っていて欲しいな。なんて。
これだって。
全部、香織がくれた。
俺は何かを、あげられてるかな。
あげられていたら、良いな。
いつか、聞いてみようかな。
「俺は香織をーーー」
そんな事を考えながら、二人の住みかを繋いでる橋の上。
手を降りながら、ばいばいした。
最初のコメントを投稿しよう!