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「……どうした? 勢いよく押し倒したクセに、怖気づいたのか。ん?」
挑発的な言葉に、誘うような視線――今すぐにでも手を出したいのに躊躇ってしまうのは、何とも言えない違和感があったから。
頭の中は覚えていないけど、身体が何かを訴えてる。身体が……いや、心がこの人をこんな気持ちで抱いちゃいけないって、言ってるみたいだ。
「ゴメン。今の俺は、アンタに触れちゃいけない気がする……すっげぇ大事な人だって、分かってるから」
「歩――?」
「アンタを見てるだけで、胸が痛くて堪らないんだ。今すぐにでも手を出したいのに、迂闊に抱いてしまったらきっと、滅茶苦茶にしそうで怖い……」
思い出したいのに、思い出せない。掴めそうで掴めない記憶――大事な人なのにどうして、俺は忘れてしまったんだろう?
横たわっているすおー先生が、俺の頭を引っ張って、自分の胸元に押しつける。少しだけ早い鼓動が、煩いくらいに耳に聞こえてきた。
「このままお前の記憶が戻らなくても、俺は構わないと思ってる」
「えっ!?」
少しだけ、すおー先生の鼓動が早くなる。
「今のお前が俺のことを、好きになればいいだけの話だから。またはじめから、やり直せばいい」
「やり直す?」
「ああ……今度は俺が、お前を落としてやる。俺なしではいられないくらい、溺れさせてやるから覚悟しておけ!」
ぎゅっと身体を抱きしめたと思ったら力任せに回転させ、ベッドに張り付けにされた。見下ろしてくるすおー先生の瞳が、今にも俺を食いそうな獣に見える。
狙い澄ました目が怖すぎて何も言えず、呆然と見つめるしか出来ない自分。
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