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「優しい歩もいいけど、大人ぶって強引な歩もよかったよ。憎らしいほど、惹かれてしまう……」
壮絶なほど綺麗な顔が近づいてきて、寂しげに薄く笑うと、優しいキスをしてきた。
互いの唇が重ねるだけの行為――柔らかい唇が俺の気持ちを掴むように唇を包み込み、そこから貪るようにちゅっと吸われる。
何となくだけど、なくなった記憶が引きずり出されそうな感じに思えた。
身体は覚えてるんだ、この人のキスを知ってる。さっきから胸がドキドキしっぱなしで、ずっと高鳴り続けているから。
震える両手を、目の前にある身体に近づけたけど、ふっと空を掴んだ。
すおー先生の身体を抱きしめ返して、そのキスに応えたいのに、思い出せない俺は躊躇してしまう。この人が求めているのは、愛しい人の記憶がしっかりある、優しい俺なんだ。
(今の、俺じゃない――)
どうにも辛くなって、すおー先生の両肩を押し退けたら、あっさりと身体を離す。だけど視線を外さず、切なげな表情をそのままに口を開いた。
「頭を悩ませるように無理して、俺のことを思い出さなくていいから。とにかく今は、ゆっくり休みなさい。分かったな?」
まるで子どもに言い聞かせるみたいに告げてから、オデコにそっとキスをして、さっさと帰ってしまう。
取り残された俺はやるせなくて、ベッドの上で暫くの間、呆然としたままでいたのだった。
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