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飛び出すように歩のいた病室から出て、慌てて扉を閉めた。
足元をフラフラさせながら、傍にある談話室の椅子に座り込んでしまう。
「ショック療法で記憶が戻るかと思ったけど、やっぱり上手くいかないものだな……」
テーブルに顔を突っ伏させた。心底、疲れてしまった――
普段言わないようなことを、ぽんぽん口にしてみたら、歩が驚いた顔をしてる姿を見て、すっごくドキドキしたんだ。俺に翻弄されて、慌てふためくその様子が、またしても可愛らしくて。
「……余計好きになっちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ。バカ犬がっ!」
きっと校内にいる時はあんな様子で、ちゃらちゃらしていたんだろうなって、容易に想像ついた。
俺の前ではまんま子供だけど、大人ぶった生意気な口の訊き方をしつつ、好きだぜ。なぁんて囁かれた下級生は、簡単に騙されてしまうだろう。
そんな風に背伸びをして頑張って大人ぶってる姿に、年上の誰かさんも、コロッといっちゃうかもしれない。故にオールマイティ。
「つくづく厄介な男を好きになってしまった。まったくもって面倒くさい……」
歩じゃなく、自分自身が面倒くさい。いつもと違う歩を見たくらいで、ドキドキして気持ちを持て余してる。
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