第1章

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 アンジェリーナは順吉の下宿を出て学校へ向かった。洗い忘れた指先を見ながら、結構疲れさせちゃったかなと思った。まばゆい朝の太陽と冷ややかな空気とが、新しい一日を感じさせた。アンジェリーナは友達のヴィーカが待っているピザ屋の前に駆け出した。  ヴィーカは水色のティーシャツに濃い青の短いスカート、長い髪に黄色いリボンを二つ結んでいた。アンジェリーナを見るとぱっと笑顔に輝いた。黒い髪に黒っぽい瞳のヴィーカをアンジェリーナはきれいだといつも思う。水色のティーシャツに胸の先が浮いて見えている。アンジェリーナは大人の順吉と付き合っているのに、ヴィーカのほうがお姉さんみたいに見えて仕方がなかった。  ヴィーカが急にきゃっと叫んでスカートを押さえた。男子が二人げらげら笑いながら後ろから走り抜けていった。陽一と秀哉との二人だった。ヴィーカは秀哉が好きなのだ。嬉しそうに怒るヴィーカがかわいいとアンジェリーナは思ったが、やはり自分と引き比べて、秀哉はまだなんにも出ないんだろうなと思った。  アンジェリーナは色の薄い金髪を、耳こそ隠れていたが男子のように刈っていて、瞳は薄い青、そばかすが少し有り、胸はまだ服の上から全然わからなかった。今日は、順吉が買ったライム色の、ヴィーカより短いスカートをはいていた。  アンジェリーナたちの教室は三階にあった。窓から初夏の海が霞んで見えた。  その日の午後はプールだった。教室では女子が着替えてから男子が入れ替わって着替える。  アンジェリーナとヴィーカとは、教室の戸にもたれかかって話しながら男子を待っていた。他の女子はもうプールに行っていた。ドアをノックする音が聞こえたので、アンジェリーナは背をどけて戸を開けた。ヴィーカが小さく声を上げ、アンジェリーナの後ろに隠れた。教室から男子の笑い声が上がった。  秀哉が戸のところで腰のタオルを開いて、裸の下半身を見せていた。しかも腰を振っている。  自分と同じ年の男子の体をアンジェリーナは初めて目にした。順吉のととても違って見えた。色白の顔がたちまち染まって、青い目が見開かれたまま立ち尽くしてしまった。ヴィーカはアンジェリーナの肩ごしに、それを射るような目でやはり見つめていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!